双胎間輸血症候群

ハイリスク妊娠

妊娠中に手術した話をして「何の手術ですか」と聞かれて「双胎間輸血症候群に対して胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術です」と言って、聞き返されなかった試しがありません。そんな知名度の低い病気「双胎間輸血症候群」に、私は三女妊娠中に罹患しました。

この病気に関して正確な情報は専門サイトを参照していただきたいのですが…(けっこう難しいです)

https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/perinatal/taiji/img/taiji01.pdf

私は「双子の赤ちゃんが1つの胎盤を使っているため、血液の奪い合いが起こっている」とざっくり認識していました。たくさん血液を得た方が大きく、得られなかった方が小さくなるため、お腹の中で大きさの違う赤ちゃんが共存している状態になります。

私の場合は、大きい方の赤ちゃんが週数的には通常の大きさで、小さい方はとことん小さく、重症度分類ではStageⅢ(atypical)とのことでした。この病気に対してレーザー手術の治療成績が上がっているが「 SIUGR (selective intrauterine growth restriction る一 児発育不全 )の場合は小さい方は死亡する可能性が高い」とのこと。九州ではまだ私と同じ症状の人に手術をした経験が無いとのことで(今でも手術ができる病院は限られています)、主治医がとても時間をかけて丁寧に説明してくださいました。

私「なるほど、手術をすれば小さい方が死ぬかもしれないと。両方とも助かる方法は無いものでしょうか。」

主治医「うまくいけば手術しないでどちらも大きくなることが期待できます。しかし手術しないで小さい方が自然経過で亡くなった場合、大きい方も続けてお腹の中で亡くなる可能性が高くなります。」

私「と言うことは、この手術は小さい方を犠牲にして、大きい方を助ける手術なのですね。」

主治医「そうです。」

私の表情が曇り、言葉が続けられなくなくなったからでしょうか。主治医は「今日の時点では二人とも元気ですよ。しかしいつまで今の状態が続くのかわかりません。ゆっくり考えてください。」と声をかけてくれました。

「どうせ手術しなければいけないのなら、早いほうが良いのではないですか?」と聞くと「週数が早いほうが手術は難しくなる。できるだけ大きくしてからの方が良いです。」とのこと。帰り道はどうやって帰ったのか思い出せないほど、ボロボロ泣いてしまいました。自分の子が死ぬかもしれない手術を決断するというのは、とてもとても重かった。

そして一週間後の外来受診でエコー検査をした主治医に「小さい方の血流が落ちている。今すぐ入院して明日手術しましょう。」と言われ、2歳の長女と6ヶ月の次女に「いい?ママは今日から入院して手術するわよ。しばらく会えなくなるけれど、大丈夫よ。何も心配しなくていいから。パパと気をつけて帰ってね。」と告げて、一人で入院しました。

入院すると色々なスタッフが献身的に尽くしてくださいました。みなさん優しくて快適な入院生活でしたが、印象に残っているのは主治医以外に3人。

(1)麻酔科医

麻酔科医「医者なんだってね。麻酔については説明しなくても大丈夫?」

私「まぁだいたいわかりますけど、一応説明してくださいよ(笑)全身麻酔ですか?」

麻酔科医「脊髄くも膜下麻酔だよ」

私「あーそしたら意識があるんですね。なんか怖いなぁ…」

この麻酔科医の先生、とてもフランクで話しやすくて素敵でした。脊髄麻酔の感覚チェックで「感覚の違い出てきた?」と聞かれて「私も麻酔科研修のとき患者さんに聞いていたけど、わからないもんですねー」と言ったら「聞けば聞くほどわからなくなるよね」と朗らかに言われて笑っちゃいました。

手術中に意識がボンヤリしながらも、主治医に「血流がガクッと落ちましたよ」と小声で報告しているのがクリアに聞こえて、真剣な先生達の横顔を見ながら「ありゃ。このまま亡くなっちゃうのかな」と思いながらウトウト寝てしまいました。「なんでその状況で寝るんだよ!」と思われるかもしれませんが、ちょっと現実逃避したくなったのかもしれません。目が合ったら説明されそうで、そっと目を閉じたら眠っていた感じです。

(2)病棟看護師

手術室搬入の前に点滴を確保しに来てくれたのですが、一回失敗されてしまいました。それで「あの…駆血帯を巻く位置はもっと中枢側が良いと思います。皮膚がひきつれた影響で、血管がわからなくなったでしょ?」と声をかけたら余計に萎縮されました。2回目で綺麗に確保できたのですが、去り際に「あの…看護師さんですか?」と聞かれて「いや…」と答えつつ「やべ、私、威圧感ハンパなかった?」と自問自答してしまいました。あのときの看護師さん、ごめんなさい!

(3)産婦人科医

手術後の夜の検温の際にドップラーで心音が聞こえないと看護師さん達がざわめき始め、呼ばれた当直医みたいな先生がエコーしてくださって「小さい方の赤ちゃんの心拍が確認できません」と言われました。「亡くなったってことですか?」「そうです」と、実にシンプルで無駄も迷いも無い説明で「優秀な医師だな」と感じました。

そんなこんなで術後1週間安静にして退院しました。よく周りの方に「死んだ赤ちゃんを取り出す手術はしたの?」と聞かれましたが、していません。だから私は自分が近い将来死産することを知っていました。

ちょうど私が手術した頃に、漫画『コウノドリ』で同じような経験をしたお母さんの話がありました。偶然でしょうけど、なんかサクラ先生からのエールのようで嬉しかったです。

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