水難事故から命を守る!

ろんだん佐賀

ろんだん佐賀の4回目は知床の水難事故について書きました。事故発生直後より現在に至るまで、捜索に尽力されている関係者の皆様に深く敬意を表すとともに、いまだ行方不明の方々の一刻も早い発見を祈ります。

さて、今回なぜ私がこのことを書こうかと思ったのか…。実は元々は「暑くなってきたし、溺水について書こうかな」とぼんやり思っていました。先日、息子が目の前で溺水したこともあり、広く注意喚起しようかな…なんて考えていたのです。

そんな矢先に飛び込んできたのがこの水難事故。以来、今のところ見つかった人の中に生存者はいません。そして死因は溺死(おぼれて死んだ)と発表されました。

確かに、泳げない私の息子があの船に乗っていたら溺死するでしょう。しかし、私自身もこの船に乗っていたら、死ぬだろうなと思います。私は泳げますが、たとえ救命胴衣をつけていても、近くに浮器があっても、いきなり寒い海に放り出されたら死んでしまいます。

他の医師の診断にケチをつけるつもりはありません。おそらく死者は水を飲んでいて溺死状態だったと予想しますので、それ自体は間違いではないと思います。でも溺死に至るまでに低体温症が先にあったのではないかと思うのです。

この低体温症について、私は今日まで全然報道で目にしていません。やれ観光船業者の安全管理が杜撰だった、見通しが甘かった、国土交通省はどうして見逃したのだ…という報道は目にするのですが、では次にどうやったら同様の事故が防げるのか?といった視点が皆無です。

こんなに報道って、単調で良いものなのでしょうか。亡くなった人の個々のエピソードは確かに心打たれるものがあります(うちの子と同世代の子が亡くなっていて泣けました)が、傷心の家族に取材して聞き出して、残った観光船会社のスタッフを責めたら、同様の事故は防げるのでしょうか。

確かに観光船会社の社長の会見は感心できるものではなかったけれど、それでもあの船は検査を通っていたわけで、こんなに悲惨な水難事故を起こす要素のある船を通す検査には問題はなかったのか。あの船はどうすれば死者を出さずにすんだのかということをもっと色んな視点で考えなければいけないだろうと思ったのです。

そのため、死因に深く関与したと考えられる低体温症と、それを防ぐ救命いかだ(ライフラフト)について書こうと決めました。救命いかだについては以前にブログで書きましたが…

その後、辛坊治郎さんのメルマガを読んでいたら「桜マークとそうでないのは桁違い」みたいな表現があって「え?3~4倍じゃない?辛坊さん、盛っていない?」と思ったのですが、よくよく調べたらありました!

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このサイトを見る限り、JCIの桜マーク製品アールエフディジャパンでKAZU1の65人分をカバーするには25人乗り3台なら1,739,688円×3台なので600万円弱かなと試算しています。

対してJCI未認可の商品についてブログではメテックス商品を取り上げましたがアリババのサイトにはもっと安価な商品も載っています

これはサイトが見にくくてよくわからないのですが、おそらく65人乗りが1500ドルだと考えます。いま1ドル129円なので20万円くらいだと考えました。

そんなわけでブログを書いたときは「数倍」というような表現でしたが、確かに「10倍」「桁が変わる」というのが印象としてはあります。

また上記のJCI未認可製品ですが、SOLASの承認は受けています。要は世界的にはこの程度のクオリティしか要求されていないのに、桜マーク製品にこだわるJCIや国土交通省って何なのだろうと思うと非常に不満です…

この事故を機に、この異常な制度や体制が見直されるきっかけになると良いなと期待しています。

「救命いかだを全船舶に」「水難事故から命を守る」

知床の観光船沈没事故に大きな衝撃を受けた。観光船業者の危機管理の甘さが報道されているが、問題はそれだけではない。

水難事故を経験した元キャスターの辛坊治郎さんや、他の船乗りたちも指摘しているが、あの船には「救命いかだ」(ライフラフト)が積載されていなかったため、乗員乗客が海に放り出された時点で極めて厳しい状況だった。水風呂でも「冷たい!」と驚くことがあるが、せいぜい17度前後である。今回の事故は水温5度以下の極寒の海で起きた。

1912年に豪華客船タイタニック号が氷山に衝突し1500人もの犠牲者を出したことを踏まえ、その後、海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)が採択された。世界ではその基準に合わせて、船舶に全員が乗船できるだけの救命艇を備えることが定められているが、日本では小型船舶の船舶検査を日本小型船舶検査機構(JCI)が国の代行機関として独自の基準で実施している。その基準では「最大搭載人員を収容するため十分な小型船舶用膨脹式救命いかだ又は小型船舶用救命浮器」を備えることが義務付けられている。つまり救命いかだが無くても、救命浮器さえあれば検査は通過できる。

今回の事故の死因は溺死と発表されているが、私は低体温症が主な原因だと考える。重度の低体温症は死亡率が90%の非常に厳しい病気だ。水中では空気中より25倍も速く体温が下がるので、低体温症に至る一番の原因は海洋放出である。水温が5度以下の場合は15~30分で意識を失い、30~90分で死に至る。救命浮器があっても意識を失ったら手を放してしまうから溺水する。そのため「海洋放出しないように全船舶に救命いかだを備えること」が必要だが、ここにハードルがある。

日本の船舶検査は桜マークがついた安全備品でないと通らない。桜マークとはJCIが製造に立ち会い、安全性を確認、承認した上で押される桜型の証印であるが、この製品は非常に高価だ。無印の製品と比べ、中には10倍程度の値段もある。安全備品の品質が大切とは言え、高額過ぎる印象だ。「KAZUⅠ(カズワン)」の定員65人分の桜マークの救命いかだは数百万円、無印の製品なら数十万円である。観光船業者に桜マーク製品を買う財力がなかったのかもしれない。JCIは救命浮器のみで検査を通過させておいて、事故が起きるまで人が死ぬことを想定できなかったのだろうか。国土交通省もそれを容認していたのか。無印の救命いかだでもあれば助かっていた可能性がある。桜マークでなければいけない理由を明確にして欲しい。

コロナ禍で観光業が大打撃を受けているところに、この事故がさらに追い打ちをかけるだろう。安全な船旅のために全船舶に救命いかだの積載は急務だ。桜マーク製品の購入助成などの対策が必要だと考える。

知床の事故は、悪天候の航行を批判されたが、タイタニック号のように静かな海でも事故は起こる。単独航行だったことも問題視されたが、2014年のセウォル号沈没事故では周囲に多くの船がいても被害は甚大だった。衛星電話やGPSの不備も指摘されたが、海洋放出されたら時間的な猶予は無い。海は広く、場所を特定できてもすぐに駆けつけられるとは限らない。その船自身で助かる仕組みがなければ乗員乗客は守れない。対策は待ったなしだ。

2022年5月22日 佐賀新聞 ろんだん佐賀 
1974年の海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)
海事:船舶検査の適切な実施(検査の概要) - 国土交通省
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