ポリファーマシーはチーム医療で

医学ネタ

医薬品不足問題について新聞に寄稿し、それを紹介したブログの中でポリファーマシー問題について軽く触れた。

ちなみに記事には書かなかったが、私は日常診療で、かなり内服薬を減らすことを意識している。高齢者はポリファーマシーの方が多い。持病があるので数種類の薬を飲んでいることは一般的だが、中には20種類以上も飲んでいる人がいるので、本人や家族と相談しながら不要と判断した薬は中止していく。そしてその後病状が変化していないか、より注意して観察する。入院中に定期内服薬を半減させることも珍しくないので、「患者さんが薬に依存気味だから中止できなかった。ありがとう!」と紹介元から連絡が来たこともあった。もしかしたら内心良くは思っていない人もいるかもしれないけど、厳選した本当に必要な薬だけを飲むことを徹底すれば、医療費抑制につながると思うので、私なりに医療経済に貢献していると自負している。

2022/2/27のブログより

この何気なく書いたポリファーマシーの記載が、思いの外たくさんの方から反響をいただいた。特に薬剤師さん達から「医師が熱心にやってくれない人が多いからもっと発信してくれ」という声が上がっていて「はて?どういう意味だろう」と夫(薬剤師)に聞いてみると意外な事を言われた。

地域支援体制加算を取るために服用薬剤調整支援料が必要だけど、実際のところ難しすぎてみんな取れていないんじゃないの?」

お恥ずかしいことに、夫が何を言っているのか全く理解できなかったので、「ごめん、最初から教えて…」と頼んで教わったことをここでご報告する。

医療費は全国統一で、〇〇をやったら〇点…などと点数化して、それを基に計算して値段が決まる。薬局も基本的には同じ仕組みで、地域支援体制加算は、かかりつけ薬剤師が機能を発揮し、地域医療に貢献する薬局の体制等を評価して加算するもの。なのだが、薬剤師がきちんと「かかりつけ薬剤師として機能をしているのか」と評価する基準がびっくりするくらい厳しい。

一部抜粋してコメントすると(調剤基本料1以外を算定する保険薬局の場合 現行の診療報酬改定2021)※青字は私の感想


地域医療への貢献に係る相当の実績として、以下の①から⑨までの9つの要件のうち8つ以上を満たすこと。この場合において、⑨の「薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得した保険薬剤師が地域の多職種と連携する会議」への出席は、保険薬局当たりの直近1年間の実績とし、それ以外については常勤の保険薬剤師1人当たりの直近1年間の実績とする。

  1. 調剤料の時間外等加算及び夜間・休日等加算の算定回数の合計が400 回以上であること。→「時間外も働きまくれ!」ということか?
  2. 調剤料の麻薬を調剤した場合に加算される点数の算定回数が10 回以上であること。→うーん…基本的には受け身の薬剤師が「麻薬あります!使って!」と押し売りするわけにもいかないけど?
  3. 薬剤服用歴管理指導料又はかかりつけ薬剤指導料の重複投薬・相互作用等防止加算及び在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料の算定回数の合計が40 回以上であること。→これは実際に疑義照会などでご連絡いただくことがある。ありがたい
  4. かかりつけ薬剤師指導料及びかかりつけ薬剤師包括管理料の算定回数の合計が40回以上であること。→24時間いつでもどうぞ!とかかりつけ対応しろということらしい。鬼やな。
  5. 外来服薬支援料の算定回数が12 回以上であること。
  6. 服用薬剤調整支援料1及び2の算定回数の合計が1回以上であること。→これか!しかし年間1回以上ってことは…ほかの基準と比較しても相当に難しいということか
  7. 在宅患者訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急時等共同指導料、居宅療養管理指導費及び介護予防居宅療養管理指導費について単一建物診療患者が1人の場合の算定回数の合計が計12 回以上であること(在宅協力薬局として連携した場合(同一グループ薬局に対して業務を実施した場合を除く。)や同等の業務を行った場合を含む。)。なお、「同等の業務」とは、在宅患者訪問薬剤管理指導料で規定される患者1 人あたりの同一月内の算定回数の上限を超えて訪問薬剤管理指導業務を行った場合を含む。→在宅の依頼が無かったらかなり難しい。自分から営業するわけにもいかないし。門前薬局なら、その病院が在宅に熱心じゃないと無理かも?
  8. 服薬情報等提供料の算定回数が60 回以上であること。なお、当該回数には、服薬情報等提供料が併算定不可となっているもので、相当する業務を行った場合を含む。
  9. 薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得した保険薬剤師が地域の多職種と連携する会議に5回以上出席していること。
地域支援体制加算
地域支援体制加算について解説しています。

9個のうち8個以上を満たすってことは服用薬剤調整支援料はほぼ必須ということ。さて、その内容とは…?

服用薬剤調整支援料とは…

6種類以上の内服薬が処方されていたものについて、処方医に対して、保険薬剤師が文書を用いて提案し、当該患者に調剤する内服薬が2種類以上減少した場合に、月1回に限り所定点数を算定します。減らした状態を4週間以上維持しなくてはならず、頓服薬、浸煎薬、湯薬は対象外になるように算定条件が厳しいため注意が必要です。

服用薬剤調整支援料とは | オンライン診療サービス curon(クロン)
中央社会保険医療協議会(中医協)総会が2020年2月7日に開催され、2020年度調剤報酬改定の個別項目と点数について、厚生労働大臣に答申しました。これにより、服用薬剤調整支援料1に加え、また令和2年度に診療報酬改定により服用薬剤調整支援料2...

要は薬剤師さんが医師に対して「この薬要らんやろ」と言って薬を減らせって提案しろってこと?これ、かなり難しくないか???

以前にも書いたが、病院薬剤師はともかく、調剤薬局の薬剤師は、目の前の患者さんの病名も検査結果も何も知りません。カルテは個人情報だから開示請求が無い限りは見せません。

だからこの服用薬剤調整支援料は「処方箋だけ見て不要な薬を予想して医師に言え」と言うもの。正直、今日までこの加算を知らなかったので、いきなり薬剤師さんに「この薬要らないと思う」と言われたらビックリすると思う。「なんでそんなこといきなり言われるの?この患者さんの病歴も検査値も知らずにそんな提案してくるの?」と戸惑う。薬剤師さん達からポリファーマシーについての発信を望まれたのは、実際に嫌な思いをした薬剤師さんも多いのかも?

これは国の要求が無理筋じゃないかと思う。場合によっては険悪な空気になる可能性すらある。

薬剤師さんにこういう要求をするのであれば、医師側にも「一度の処方箋で10種類以上になったら減算」みたいに双方にルールを作らないと、うまく機能しないのではないかと思う。医師も必死に薬の数を減らす努力をするし、薬剤師さんの提言もありがたく聞いて検討するのでは?まぁまた春に診療報酬改訂があるだろうから、そのへんも見直される可能性はあるけど…

ちなみに私が薬を減らす時に気をつけていることをザッと書き出してみた。減薬は外来でやるのは医師と患者双方に勇気がいるので、入院中に挑戦することが多い。

  • 鎮痛剤を飲んでいたら本当に痛いのか聞いて、痛くなさそうなら中止する。数日見て痛がっていたら再開する。鎮痛剤は複数飲んでいるパターンもある。また帯状疱疹後神経痛などは本人が忘れていることもあるので既往歴を確認し、絶対に途切れないようにしなければならない。また癌性疼痛などは予防的に内服している場合もあるから、本当に切っていいかはしっかり確認。
  • 鎮痛剤とセットで胃薬が出ているパターンも多いので、その場合は鎮痛剤と同時に胃薬も中止する。
  • 胃薬は急性期にセット処方で出されて、そのまま切り忘れられているパターンも多い。内視鏡の確認無しに漫然と続けると返戻になるケースもあるので、患者さんの症状を確認しながら中止できそうなら中止する。
  • 脳血管疾患では発症時に抗痙攣薬を処方されて、そのまま漫然と飲んでいるケースも多い。脳波の異常が無ければ入院中に観察しながら中止する。
  • 整腸剤と下剤を同時に飲んでいるパターンでは、両方とも中止してみてどっちが必要かを評価する。よくあるのは下剤を飲み過ぎて下痢になって整腸剤もらってそのままになっているパターンで、その場合は下剤を少量再開すれば落ち着く。
  • 漢方薬は全部切っても大丈夫なことが多いが、高齢者は漢方薬そのものが精神安定剤になっていることもあるので、その時は無理に中止しない。
  • 不整脈治療薬は触らないことが多いけれど、冠動脈拡張薬はなんとなく続けられているパターンも多いので、既往歴とか症状をしっかり調べて、中止できるか検討する。ただし既往歴がある場合は必ずかかりつけ医や専門医に確認する。
  • 脂質異常症の薬は検査値次第で中止する。ただ脳血管疾患や心疾患の再発予防の場合もあるから既往歴はしっかり確認する。自信がない時はかかりつけ医に確認する。
  • 降圧薬は合剤もあるから、数を減らすことが可能な場合もあるから合剤を試す。
  • 尿酸降下薬や鉄剤、ビタミン剤などは開始した後に切り忘れているケースも多い。血液検査をして改善していたら一旦中止して、時間を置いて再検査してそのまま中止か再開かを検討する。
  • 睡眠薬や鎮痛薬は患者さんの自覚症状を最も重視するので、不要であれば中止して構わない。

という感じで減らしていく。ちなみに外来では患者さんが勝手に自己中断してしまうパターンもある。本来はコンプライアンスが低下しているので怒らなければいけないのだろうが「もしかしてこれ飲まなくても大丈夫かな?怒るべきか?」と迷う場合がある。その時は患者さんと相談して試験的に中止してみることもある。

そんなこんなで「これを薬剤師にだけ努力を要求するのは無理があるだろうよ」と思う。減薬はチーム医療で進めるのが効率が良い。病歴から医師が減らして良いと考えても、看護師が観察上「あれを飲んでいた頃の方が調子が良かった」などと言われたら慎重に判断する。また減薬には本人や家族の意向も確認しながら行わないとトラブルの元だ。その上で薬剤師の目から見て「これは中止してもいいのでは」という違う視点が光ってくると思う。

そんなわけで私みたいな医師を除けば、薬剤師ばかりが減薬に熱心な状況に違和感を感じている。何とかならないもんかね…

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