今回の『診察室から』では小学一年生の窒息事故について取り上げた。
ウズラは悪くない!
2024年3月30日の佐賀新聞より
福岡県みやま市の小学一年生が給食で窒息死した事故。私には同い年の娘がおり、他人事(ひとごと)とは思えず心が痛む。心からの哀悼の意を表する。
娘に事故の話をすると「もうウズラの卵は食べない…」「え?違う!ウズラは悪くない!」と思わず叫んだ。この事故の原因は食べ物を適切に咀嚼(そしゃく)できずに塊のままで飲み込んでしまったことにある。それはウズラの卵に限ったことでは無いので、窒息した食べ物を排除していてはキリが無い。こんな軽率な事を言うのは娘だけかと思いきや、全国的に「学校給食ではウズラの卵の使用を控える」という風潮になっていることに驚く。
摂食嚥下とは食べ物を認識してから、口に取り込み、咀嚼(そしゃく)し、咽頭・食道を経て胃へ送り込む一連の機能を指し、その能力が落ちることを嚥下障害と呼ぶ。加齢や脳卒中などが原因で、嚥下障害になることがあり、我々(われわれ)のようなリハビリ専門病院では嚥下訓練を行う。食べ物を口に入れた後に口を閉じて咀嚼(そしゃく)することで、口腔内圧が上がって食べ物を胃に送り込める。訓練しても通常の形態での摂食が困難な場合は、固形物を小さく刻んだり、液体にトロミをつけたりする工夫が必要だ。
しかし、健全な小学生が摂食する食べ物を小さく刻むことは必要だろうか。まだ歯のない離乳食の時期ならともかく、小学生は(乳歯からの生え替わりがあるにせよ)自分の歯がある。しっかり噛んで(かんで)食べ物を小さくして飲み込むことを習得するべきだ。摂食時間を十分に確保しなければ、必要な咀嚼(そしゃく)はできない。短時間で急き立てる(せきたてる)ように食べたり、牛乳等で流し込むように食べたりしてはいないだろうか。
以前に給食牛乳のストロー廃止に異議を唱えたが、パックからの直(じか)飲みは牛乳を一気に流し込む危険がある。ストローは口唇を閉じて口腔内を陰圧にする訓練にもなるので、ストロー廃止で口唇力を鍛える機会も奪われてしまうのは残念だ。
成長期に嚥下機能をしっかりと鍛えることで、窒息事故を撲滅したい。学校でも家庭でも真剣に取り組みたい課題である。
この原稿を書いているときに娘の友達が遊びに来て「吉原さん、何書いているの?」「ウズラは悪くないっていう記事よ。ウズラは濡れ衣よ。ウズラだって食べていいのよ。」「え!そうなの?事故があったからダメだと思っていた…」「あのね、窒息事故なんて色んな食材で起こるのよ。過去には餅や蒟蒻ゼリーもあったの。クッキーみたいなお菓子を詰まらせることだってあるしね…」ということを説明したところ「そうだよね!そのうち食べられるもの無くなっちゃうよね!」と納得してくれたようでした。
そんなことを話していたら義弟(熊本県出身)に「そうだよなぁ。太平燕にウズラの卵が入らないとか考えられないよね!」と言われたので「そうだね!でもね…太平燕が学校給食に出るのは、熊本県だけだと思うよ」「え!出ないの?じゃ、他の県の人って太平燕を食べたくなったらどうするの?中華料理屋に行くの?」「いや、佐賀の中華料理屋で太平燕を見たことはないな。食べたくなったら熊本に行くよ?」「えええええ!そうそうなの?」と、ガチに驚いていました(笑)
熊本名物『太平燕(タイピーエン)』春雨のあっさりしたスープで、上に乗っている具が楽しいし美味しいです!学校給食で出たら「給食当番の特権!」とばかりにウズラの卵を多めにつぎたくなっちゃうね!
なお、この事故について歯科医と話す機会があって「最近の子って本当に噛めないのよ。まず口が閉じられないんだから…」と熱く語られました。
学校給食の牛乳ストローについても、入学者説明会でショックを受けたママ友からも色々と連絡が来ました。以前に学校にも教育委員会にも牛乳業者にもけっこう吠えたのだけど、言うだけ言ったのでスッキリ。今は、子どもにストローを持たせたり、学校で用意してもらったりしています。
そう、色々文句を言いながらも給食大好きだし、本当に感謝しています。春休み、給食が恋しいです…♡
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