MSWの作法

医学ネタ

7月に入り、農繁期の佐賀県では入院患者さんが減り(農家さんは忙しい時期に予定手術など入れないので)、回復期リハビリ専門病院を営む実家は閑古鳥が鳴いています。せっかくゆとりもある時期なので、いつもお世話になっている急性期病院へ、医療連携室のメンバーと一緒に夏のご挨拶に回っています。

さて、今日は私が研修医時代から今もお世話になっている大学病院へ。そこで大学の医療ソーシャルワーカー(MSW)のEさんとの再会を果たしました!


Eさんとはまだ新米医師の頃に出会ったのですが、あまりに仕事が出来るのでひたすら感動してしまいました。若い頃に出会った尊敬するコメディカルスタッフは以前に看護師のイトウさんをご紹介したことがありますが、Eさんも今も熱烈に尊敬する方です。


10年前、Eさんのことを興奮気味に綴っていました。

やり手のMSWがいるらしい、という噂を耳にしました。

MSWとは医療ソーシャルワーカー(Medical Social Worker)のこと。保健医療分野におけるソーシャルワーカーであり、主に病院において『疾病を有する患者等が、地域や家庭において自立した生活を送ることができるよう、社会福祉の立場から、患者や家族の抱える心理的・社会的な問題の解決・調整を援助し、社会復帰の促進を図る』専門職を指します。

患者さんの転院調整のときなど、以前からお世話になっていましたが「MSWにやり手とかどうとか、あるの!? 調整してくれる人だよね!? 」くらいの認識しかありませんでしたが…。結論から言えば、やはり、やり手は存在しました。

紳士的なオジサマMSWのEさん。「先生の患者さんの担当になりました」と連絡があったとき「私が担当でもいいですか!? もっと若い男がいいですか!? 」とニヤニヤ聞かれて、一気に緊張がほぐれました。

MSWと患者さんとの面談に医師の立会いは必須ではありませんが、Eさんの面談は面白いし勉強になるので、ついつい寸暇を惜しんで立ち会ってしまいます。わかっているつもりだった法律、医療保険、介護保険、身障者制度、パーキングパーミットなどを非常にわかりやすく噛み砕いて説明してくれます。また市中病院の役割の違いや、かかりつけ医の生かし方、退院を控えた患者さんや家族の心の微妙な動きまで熟慮した上で、私が求める今後の治療の進め方にベストな方法を提案してくれます。

他院との転院交渉も上手だし、「嘘!?」ってくらい仕事が早いので、さっき面談したと思っていたのに、カルテを開けば報告書が完成しています。いざ転院となれば、介護タクシーなどの手配も抜かりなく、患者さんも家族もニッコニコで転院していきました。

今までのMSWに不満を抱いていたわけでも何でもないのですが、何しろ患者さんも家族も「素敵な人を紹介していただいてありがとうございます」と、MSW介入そのものに対して御礼を言われるなんて初めての経験だったので、私も頭が下がる思いでした。

すごすぎる…。

もはや「痒いところに手が届く」というレベルを越えて、Eさんに出会ったことで「あれ!? そこ、痒かったのね!! 」と発見してしまったような感覚です。

あまりにも感動したので、外勤中に実家のMSWにその話をしたら「Eさんは本当にすごいですよね!!」と、有名人であることが発覚しました。

どの世界にも「やり手」というか、本当にすごい人っていますね。
私もやり手を目指したいと思います。

2013年8月23日のFacebookより

Eさんは今日も患者対応で引っ張りだこで不在でしたが「せっかく大学に来たのにEさんに会えないなんて…!Eさんが帰って来るまで待ちます♡」と長居してしまいました(←迷惑な訪問客笑)


待望のEさんに会えたので、近況報告やら実家のMSWの話やらしていた時にEさんが「マリ先生の病院はね、MSWのメンバーが変わらないのが素晴らしいですよ。働きやすい環境なんでしょうね。こちらも相談する側として、いつも同じメンバーが対応してくださるから話しやすい。そして、そちらに入院中の患者さんが急変して大学に搬送されて、こちらで治療してまたリハビリをしましょう…ってなった時に、皆さん『また戻りたい』と希望されます。また戻りたい病院って良いですよね。たまに違う病院を希望されるケースがあって、そういう時はこちらも苦労しますから…」と褒めてくれたのですが、私自身も気付いていなかった実家の病院の魅力を教えてもらって嬉しかったです。


病気の治療だけをすれば患者さんはハッピーなのではなく、その後の生活に根差したサポートに繋げる上で、MSWの役割はとても大きいです。私も以前、三女が退院する際に使う社会的資源について入院先のMSWに相談させていただき、助かりました。

私にとっての転機は三女の出産だった。三女は在胎24週に706gで生まれてNICU(新生児集中治療室)に5ヶ月間入院した。こともあろうに私はそのころ離婚した。3歳と1歳の子を抱え、さらには常に酸素吸入が必要な0歳児を抱えたワンオペ育児に気が狂いそうになった。

「上の子2人の保育園、どうやって送迎したら良いの?」と頭を抱え、入院先の医療相談員に「毎日の送迎の間、訪問看護を利用したい」と言うと「三女をケアできる看護師の派遣は困難だ。逆に上2人を送迎してくれる人を探したら?」と提案された。私の両親は近くに住んでいるが就労しており、日常的に頼るのは難しかったので、家族以外に助けてくれる人を探そうと考えて佐賀市のファミリーサポートを利用することにした。育児経験者の方が毎日来てくださるようになり、その安心感は驚くほどだった。保育園にも通園できるようになった。

『多子育児をご一緒に』より

この時のMSWのSさんも会いに行くたびに「お子様達は元気にされていますか?」と気がけてくださる優しい方です。また会うのが楽しみだなー♡


ちなみに『MSWの作法』と偉そうに書いたのは、友達の投稿で池波正太郎の『男の作法』を思い出したから…

医師以上にMSWはマニュアルの無い仕事です。患者さんが困っていること、求めていることは千差万別。それこそ広い洞察力と経験と知識が必要です。

医師や看護師と違って、MSWは治療に直接関与するわけではないけれど、患者さんやご家族にとってはとても親しみやすい大切な存在です。これからも頼りにしています!!

コメント

タイトルとURLをコピーしました